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ラマン散乱とは

ラマン効果の背景にある理論と、C.V. ラマン博士による発見の概要について紹介します。

ラマン分光は、物質の化学的性質と構造の理解に用いられています。単一波長のレーザー光をサンプルに照射すると、微量な光がサンプルの化学結合と反応し、散乱する際に色が変化します。非弾性的に散乱した光を測定し、サンプルの情報を取得できるのがラマン分光器です。良好なスペクトルを得るために重要なラマンマイクロスコープのパーツなどについても紹介します。

分光法とは

分光法とは、サンプルと相互作用した後の光の色と相対強度を測定する際に用いる手法です。化学構成、物質の物理構造や電子構造を調べることができます。

光は物質とさまざまな形で相互作用します。光が透過する物質がある一方で、反射や散乱する物質もあります。この相互作用は、物質と光の色 (波長) の両方の影響を受けます。

可視スペクトルのどの部分が人の目に入るかによって、人が認識する色が決まります。例えば、当たる光のスペクトルのうち赤い要素を吸収する物質は、青く見えることがあります。可視スペクトルの青い要素のみが我々の目に反射 (散乱) しているからです。

光の物質との基礎的な相互作用の種類光の物質との基礎的な相互作用の種類。

ラマン分光の発見者

ラマン散乱プロセスの名称は、その発見者であるインドの物理学者チャンドラセカールラマン博士に由来しています。博士と博士の生徒である Krishnan 氏が、光が透明な物質を通過する際に、その色が変化することを発見しました。光は分子の振動と相互作用することで色とエネルギーが変わり、これこそが非弾性的なラマン散乱プロセスです。当時、他の科学者たちも、ラマン効果のことを量子論の最も有力な論証のひとつであると認識しており、ラマン博士はこの発見により、1930 年にノーベル物理学賞を受賞しました。

ラマン博士がラマン効果を発見したのは 1928 年のことです。ですが、レーザーや検出器、コンピュータなどが発展し、効率的なラマンシステムが開発されるに至ったのは、それから数十年が経ってからでした。そしてラマン分光は今では、研究分野と製造分野両方で不可欠なツールとして活用されています。

ラマン分光の概要

ラマン分光が初めての方は、ラマン分析の基礎からご覧ください。

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ラマン効果の検出方法

ラマン効果はラマン分光器で測定することができます。まず、レーザーなどから単色の光をサンプルに照射します。青色の光を照射した場合は、青色の光が反射するはずです。散乱するほとんどの光は照射時と同じエネルギーを持っています (「レイリー散乱」)。

散乱した光のうち、わずか 1 千万分の 1 程度のみがラマン散乱光です。ラマン分光器を用いることで、色が変化し周波数がシフトしたラマン散乱光を検出することができます。分子の振動と相互作用することで、散乱する過程において周波数が代わり、光子 (光の粒子) がエネルギーの一部を物質の分子振動と交換することでラマン散乱が発生します。

ラマン分光による振動モードの測定

ラマン分光では、散乱光を分析することで、振動モードごとのエネルギー差を測定します。分子の電子雲が分子によって分極し、「仮想的な」エネルギー状態が起こると散乱が発生します。ラマン散乱は、散乱の過程で光子がエネルギーを変化させると発生します。励起された分子が、本来持っている状態よりも低いまたは高い振動モードへと緩和されるためです。

光子が分子の振動エネルギーレベルと相互作用することでエネルギーが変化するため、非弾性的なのがラマン散乱です。ラマン散乱は、散乱光のエネルギーが失われるときは「ストークス」と呼ばれ、増すときは「アンチストークス」と呼ばれます。
「ストークス」は、分子が基底状態から仮想状態に遷移し、そしてその後、当初よりも高いエネルギーを持った振動状態に遷移すると生じます。「アンチストークス」は、分子が振動励起状態から仮想状態になり、そしてその後、基底状態へと緩和されると生じます。「アンチストークス」のほうが「ストークス」よりも弱いため、「アンチストークス」が用いられることはあまりありません。ですが、「アンチストークス」からは分子の同等な振動情報がわかります。

一方、レイリー散乱は、分子が基底振動状態に戻る際に生じます。入射光子と同じエネルギーを持つ光子が解放されるため、レイリー散乱光は入射光と同じ周波数と色を持ちます。レイリー散乱は、ラマン散乱光よりも約 1 千万倍強く、最新の分光器では高効率フィルタを用いて、レイリー散乱光を除去することでラマン散乱を容易に検出するようにしています。

レイリー散乱とラマン散乱のエネルギー模式図
ヤブロンスキー図では、レイリー散乱とラマン散乱中のエネルギーの変化が示されています。S0、S1、S2 (エネルギー振動レベルが順に高レベル) が典型的な電子エネルギーレベルです。

ラマン散乱の仕組みは赤外分光法と似ていますが、適用される選択規則が異なります。ラマン散乱が起こるには、分子の分極率が振動中に変化する必要があります。ラマンスペクトルに振動があると赤外線スペクトルには振動がない場合があり、また逆に赤外線スペクトルにあるときはラマンスペクトルにはない場合があります。例えば、ラマン分光器はダイヤモンド内の炭素結合を分析できますが、赤外分光システムでは分析できません。

ラマンシフトからわかること

ラマンシフトとは、入射レーザー光と散乱光のエネルギー差です。このエネルギーの変化は、分子内の原子の振動周波数に依存します。分子の振動を調べることで、物質の化学構成や物理構造を解明できます。

ラマンシフトまたはエネルギー変化が大きいと、分子の振動が高周波数であることがわかります。軽い原子が互いに強く結合しているためです。逆にラマンシフトまたはエネルギー変化が小さいと、分子の振動が低周波数であると言えます。重い原子が互いに弱く結合しているためです。

ラマンマイクロスコープの構成部品

典型的なラマンマイクロスコープは、光学顕微鏡がベースになっており、そこに励起レーザー、レイリーフィルタ、分光器そして検出器が組み合わされます。ラマン効果は非常に弱く、色の変化は散乱光のおよそ 1 千万分の 1 程度です。肉眼で認識するには弱すぎるため、分析するには高感度なラマン分光器が必要になります。

レニショーの inVia ラマンマイクロスコープは以下の部品から構成されます。

1. 単一または複数のレーザー (UV (244nm)~IR (1064nm)、ワンクリックで切替え可能)

2. 高性能対物レンズ (サンプルへのレーザーの焦点合わせ)。共焦点×100 レンズ、長距離レンズ、液浸オプションもあります

3. レイリーフィルタ (ラマン光のみを収集するために、反射光と散乱光を分離)

4. 電動レンズ (レーザー波長の自動最適化)

5. 回折格子 (高分散かつ高寿命で、ラマン光を分光)

6. CCD 検出器 (高感度、-70℃に電子冷却)

7. PC (システムの自動制御、データ収集、分析に使用)

典型的な Qontor の図

inVia™ ラマンマイクロスコープの典型的な部品の配置

ラマン分光とは

ラマン分析、フォトルミネッセンス (PL) についてご興味をお持ちでしたら、当社までお問い合わせください。高速ラマンイメージング、データ解析などについてお答えいたします。

ラマン分光の概要