エンコーダへのフォーカス
アブソリュートエンコーダシステムとインクリメンタルエンコーダシステム、どちらを使用すべきか
近年の光学式エンコーダは、インクリメンタルシステムとアブソリュートシステムという 2 種類のタイプに分類でき、どちらもさまざまな業界で直線軸と回転軸に使用されています。何を基準にエンコーダを選択すればよいでしょうか。いくつかの機能と性能の違いを検討する必要があります。
原点復帰を行うかどうか

アブソリュートシステムでは原点復帰が不要であることが、最も大きな違いです。用途によっては原点復帰は極めて重要なものですが、アブソリュートエンコーダでは電源 ON 時にこの原点復帰を実行する必要がありません。原点復帰には時間がかかるため、機械軸が複数の場合には、原点復帰サイクルが複雑になり長い時間を取られることになります。また、ヘキサポットやウェハ処理用ロボットアームなどの場合は、例えば停電後などに原点復帰を強制して行うと、ロボットそのものやペイロードを損傷する危険性があります。
ポイント測定 v.s. 連続出力
機械コントローラは通常、アブソリュートエンコーダに 65µs (15kHz) 間隔で位置情報を要求するため、測定値同士の間に間隔があります。これは、特に DDR モータなどの場合の、高精度速度制御に影響する場合があります。一方、インクリメンタルエンコーダシステムは正弦波を連続出力するため、速度誤差が減少し速度リップルを抑えられます。リップルの影響は、高剛性のサーボモータを制御するための高制御ゲインによってエンコーダ出力内の、わずかな誤差が増幅することも一因です。フレキソ印刷 (例: ウェブハンドリング) などでは、速度リップルによりコーティングが不均一になり、機材上の水平バーの配置が好ましくない状態になるため、「完璧」な速度制御がより重要です。
速度

デジタルインクリメンタルエンコーダの最高速度は、受信機器側の最大入力周波数 (MHz) と必要な分解能によって決まります。受信機器側の最大周波数は一定であるため、分解能を上げると最高速度が下がり、分解能を下げると最高速度が上がります。アブソリュートエンコーダにはこのような制約がなく、高速でも高分解能を実現できます。理由としては、要求に応じて位置が測定されることと、シリアル通信が使用されているためです。高速性と高分解能を両立した設計を実現できます。使用例としては、配置速度の高速化と高精度化が常に求めらている、表面実装技術市場のピックアンドプレース機などがあります。
周期誤差
光学式インクリメンタルエンコーダの周期誤差の原因としては、主にふたつが考えられます。ひとつはオプティカルフィルタ機構によって形成される干渉縞で、干渉縞には高調波が含まれます。もうひとつはディテクタや IC などの電子機器類で、これらによりリサジュのゆがみや楕円が発生します。これに対し、高調波のない干渉縞を適切に生成する光学システムを設計します。純粋な (シングルトラックの) アブソリュートシステムでの周期誤差の主な原因は、エイリアス現象です。エイリアスとは、同じ速度でサンプリングしたときに別の波形と同じものとして現れる正弦波信号のことです。大量の周波数がディテクタに送信される場合にエイリアス現象は問題になります。この影響は、インクリメンタルシステムではオプティカルフィルタ機構によって抑制されていますが、一般的なアブソリュートシステムでは、遅延の増加をさけるためにデジタルフィルタ機構が採用されていません。このエイリアス現象により、アブソリュートシステムの場合で約≤10µm 周期の誤差が発生し、この現象は周期ディテクタによるスケールピッチのポイント測定に起因しています。この影響は、入念に行い、オプティカルフィルタ機構を実装することで抑制でき、関連する誤差振幅は 10nm 未満に抑えられます。適切に設計したインクリメンタルエンコーダであれば、同等のアブソリュートシステムよりも周期誤差がわずかに低く抑えられます。
ジッタ
インクリメンタルシステムでもアブソリュートシステムでも、ジッタの基本的な原因は、広範囲の周波数で発生する各種のノイズ (ショット、ジョンソン、1/f など) です。これらのノイズの影響を抑えるには、フィルタリングしてエンコーダからモーションコントロールシステムに送信される周波数範囲 (帯域幅) を低減します。位置情報が常時送信されるインクリメンタルエンコーダの場合は、(アナログ) 矩形波信号の帯域幅を制限することでノイズの影響を抑えます。ただし、エンコーダの最高速度が制限されます (速度を参照)。例えば、TONiC™ で最適なジッタ性能を得るには、最高速度を 1m/s よりもかなり低く制限します。一定間隔で位置情報を取得するアブソリュートシステムの場合は、位置のジッタが各測定における不確定要素です。同じ方法で帯域幅を制限できませんが、デジタルフィルタ機構を使用します。結果、アブソリュートエンコーダのほうが、最適化したインクリメンタルシステムよりも位置のジッタが少し大きくなります。一般的に、高い剛性で位置を安定させる必要がある高精度科学ステージでは、インクリメンタルエンコーダのほうが好まれます。
ただし結局のところ、どのエンコーダが最適なのかは用途次第です。どちらのシステムも高精度ですが、図に示したように分解能と速度の間で兼合いを取る必要があります。
レニショーのエンジニアが最適なエンコーダソリューションの選択および仕様に関するご相談に対応しますので、お問い合わせください。
*ショットノイズは電荷の離散特性により発生します。フォトディテクタなどの光学機器で重要な光子に特有です。
ジョンソンノイズは、導線や電子機器内の電子の熱擾乱により引き起こされるランダムなホワイトノイズです。
ピンク (1/f) ノイズは、パワースペクトル密度 (Hz 当たりのエネルギーまたはパワー) が信号周波数に反比例するような周波数スペクトルの信号です。ピンクノイズでは、各オクターブ (周波数の半分/倍) が等しいノイズパワーを持ちます。
隠れたコスト: エンコーダの購入に TCO と ROI が重要な理由
エンコーダの選定時、資本コストや購入価格のみに目がいきがちです。高品質エンコーダがプロセスにもたらす真の価値や、インクリメンタルエンコーダとアブソリュートエンコーダの相対的なメリットを正しく理解されていないことが考えられます。エンコーダシステムの購入決定に際しては、資本コストだけでなく、TCO (Total Cost of Ownership: 総所有コスト) と ROI (Return on Investment: 投資対効果) を検討する必要があります。TCO とは、使用期間全体にわたる投資の価値で、ROI は同期間の初期資本投資に対する利益を指します。エンコーダシステムに対してこれらの用語があまり使用されませんが、例を挙げて検討してみましょう。エンコーダシステムが特定プロセスの時間短縮に役立つ場合は、そのコスト上の利点は明らかです。仕様上の高速性が理由とも言えますが、インクリメンタルエンコーダシステムとアブソリュートエンコーダシステムを比較することで簡単に表せます。
例として、フラットパネルディスプレイ (FPD) の製造プロセスにアブソリュート光学式エンコーダシステムを使用した場合の、コスト面でのメリットを下表に示します (原点復帰が不要になることよって得られるメリット)。数値はすべて業界平均の概算参照値*です。
項目 | 光学式インクリメンタルエンコーダシステム | 光学式アブソリュートエンコーダシステム |
概算システムコスト (スケール長 1m) | £600 | £900 |
1 時間当たりの原点復帰回数 | 0.5 | 0 |
原点復帰にかかる最長時間 | 15 秒 | 0 |
軸数 | 3 | 3 |
1 時間当たりの機械のコスト | £36.00 | £36.00 |
1 時間当たりのオペレータのコスト | £8.00 | £8.00 |
機械寿命 (年数) | 3 | 3 |
機械稼働時間 | 80% | 80% |
1 時間当たりの損失時間 | 7.5 secs | 0 secs |
1 時間当たりのコスト | £0.073 | £0.00 |
機械の寿命期間にわたるコスト (3 軸) | £1,281 | £0.00 |
ROI (エンコーダのみ) | 42.3% (£381) |
*週 7 日 16 時間 (ダブルシフト制) で年間通して稼動させた場合。通貨は英ポンド。
この場合のアブソリュートエンコーダを使用する主な利点は、原点復帰が不要になることです。インクリメンタルエンコーダと対照的に、アブソリュートエンコーダは必要なタイミングで位置情報を取得し、機械停止後に原点復帰を行わなくても再起動できます。総体的に 1 時間に平均数秒の時間短縮につながります。優れた信頼性と拡張性を備えた、メンテナンスの必要性が低いエンコーダシステムでも、このような時間短縮が可能です。数秒というとほんのわずかな時間のように感じられますが、3 軸機で 3 年間にわたって使用した場合は、コスト面に大きな効果が表われます。東南アジアのある平均的な FPD 工場では、500 台の機械を使用しているため、各工場の合計 ROI が 65 万ポンドになります。購入するエンコーダを決定する際にコスト上の利点を的確に検討することで、大幅なコスト削減を実現できます。
エンコーダの購入を、単なる日用品の購入と捉えないことが重要です。資本コストは氷山の一角にすぎません。
マスタリングスケールとフローティングスケールの比較
オープンタイプ光学式リニアエンコーダシステムには、リードヘッドとスケールという 2 点の主要要素があります。高仕様のモーションシステムの場合、スケールの取付け方法次第で、特に熱性能に関してシステム動作に大きな影響が出ます。
スケールの取付け方法には、マスタリングとフローティングの 2 種類があります。
取付け方法の違いと位置フィードバックシステムにおけるメリット/デメリットを理解したうえで、どちらの方法を選択するかを決定します。マスタリングスケール
マスタリングスケールは、エポキシ樹脂接着のエンドクランプで両端を機材にしっかりと固定するため、スケールと機材が一体となって伸縮します。つまり、スケールと機材の熱膨張率が等しくなります。

エンドクランプとエンドクランプの間では、スケールは各仕様に合った両面テープで機材に接着します。そのため、温度変化に応じてスケールが伸縮しても、スケールのリニアリティ性能が維持されます。
機材へのマスタリングは、スケールが機材よりも薄く、かつ断面が低い場合にのみ適用できます。想定される熱変位中に機械的な安定性に影響を与えないためです。
この取付け方法の主なメリットは、スケールの熱特性が機材と等しくなるためスケールの熱特性を簡単に把握できることです。
フローティングスケール
対称的に、フローティングスケールは、機材から独立して熱変位するように取り付けます。スケールと機材の異なる熱変位に対応するために、スケールが機材にしっかりと固定されるのは 1 点のみで、残りは両面テープとクリップまたはガイドで固定されます。

ただし、クリップとガイドのどちらを使用しても、フローティングスケールは、熱膨張に関して機材から厳密には独立しません。摩擦などの影響により位置決めに影響が及んだりヒステリシスが発生したりして、実際の熱膨張率が自由な状態のスケール材質本来の熱膨張率と等しくならないためです。現実面ではこの補正は簡単ではありませんが、フローティングスケールの取付け方法 (両面テープとクリップまたはガイド) についてこの挙動のモデル化が可能です。ただし、多くの場合、低熱膨張率の材料でできている場合は特に、フローティングスケールは高い精度を有しています。
レニショーは、フローティングスケール (RTL、RSL および REL) とマスタリングスケール (RGS)、どちらもラインナップしています。