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ラマン分光による脳腫瘍の分類

2021 年 5 月 28 日

どうすれば、外科医が 15 分以内に腫瘍組織と健康組織を正確に区別できるでしょうか。その答えは、ラマン分光を使用することです。

腫瘍の外科的切除は、がん患者の予後を劇的に改善できる大事な治療ですが、周囲の非がん組織を切除してしまうと、患者の健康をさらに損ねてしまう可能性があります。腫瘍組織をできるだけ多く切除したいという思いと、健康な組織を保持する必要性を両立させるためには、この 2 種類の組織を正確に区別することが極めて重要です。

脳腫瘍外科ほど、患者の予後の改善と損傷の拡大との間が紙一重である世界は他にありません。機能している脳組織を切除すれば、恒久的な障害を招いてしまう可能性があります。さらに厄介なことに、腫瘍と健康組織との間に明確な境界が存在することがほとんどありません。がん細胞は、主たる腫瘍から離れ、周囲の非がん組織に浸潤することができるからです。そのため外科医は、リスクを冒して切除する腫瘍の量について難しい判断を迫られ、腫瘍と健康な組織とを正確に区別するための戦略が強く求められます。ラマン分光は、この難題に応える斬新で効果的な手法となる可能性を秘めています。

クリニックにおけるラマン分光の活用事例

レニショーが開発した RA816 は、生体試料分析に特化したラマンシステムです。特筆すべきは、コンパクトな卓上型のシステムであることから、臨床環境に組み込めるということです。オックスフォード大学ナフィールド臨床神経科学科の Plaha 教授グループに所属する神経外科医の James Livermore 氏が、切除した外科組織を最小限の試料調製で迅速に分析できるワークフローをレニショーと共同開発し、ラマン分光情報を 15 分以内に取得できるようになりました。所要時間が短縮されるため、ラマン分光は、手術中にリアルタイムで意思決定を行うのに役立つ可能性があります。

腫瘍と健康組織の区別

James 医師は、RA816 を使用して、62 個のがん脳生検試料から 9,799 本のラマンスペクトル、そして 11 個の正常な脳生検試料から 1,825 本のラマンスペクトルを収集しました。これらのスペクトルを用いて分類モデルを作成し、さらに生検試料に適用することにより、スペクトルのわずかな違いに基づいて癌か非癌かを識別できるようになりました。主成分分析 (PCA) と線形判別分析 (LDA) を組み合わせて構築したこのモデルは、腫瘍か正常組織かを識別するに当たって感度と特異度の両方で 0.96 以上を達成し、腫瘍と正常組織を効果的に切り分けられることが確認されました。

腫瘍組織と健康な脳組織のラマンスペクトル

腫瘍組織の遺伝子サブタイプ分類

腫瘍の切除に対する反応は患者によって異なるため、脳神経外科医はそこで別の難題に直面します。腫瘍組織を特定し、切除しても、患者の健康状態が改善する度合いや期間を判断することや、腫瘍が再び増殖する可能性を把握することは困難です。腫瘍の切除がもたらし得る健康上のメリットは、その腫瘍が生来的に有する遺伝的特徴に左右されます。例えば、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ (IDH) という酵素の変異は、無増悪生存期間が長くなることを示唆しています。そのため、腫瘍組織を特定の遺伝子サブタイプに分類することにより、外科医は、腫瘍の切除戦略を決定する上で貴重な情報が得ることができます。

ラマン分光は、神経膠腫を分類するための有効なプラットフォームとなり得ることを証明しました。James 氏は、脳のがん生検試料から取得した 9,799 本のラマンスペクトルを用いて、遺伝子サブタイピングモデルを作成しました。このモデルを使用すれば、神経膠腫組織を、1) IDH 変異型星状細胞腫、2) IDH 変異なし星状細胞腫 (野生型)、および 3) 乏突起膠腫という 3 大遺伝子サブタイプに分類できる可能性があります。この PCA/LCA 構築モデルによって新鮮な組織を各サブタイプに分類したところ、最小感度 0.79、最小特異度 0.90 という良好な結果が得られました。

LDA スコアのヒストグラム
組織試料のラマンスペクトル
線形判別分析

まとめ

ラマン分光は、外科医が最適な治療介入を判断する際の参考となる情報を豊富に提供できます。場合によっては 15 分以内に、腫瘍組織を正確に特定し、外科的切除の対象となり得る箇所を印付けることができます。加えて、健康な組織を切除することによって損傷が生じるリスクがある場合に、腫瘍から遺伝子情報を速やかに取得できれば、外科医が患者の予後を多少なりとも予測できるため、どの程度積極的に切除を進めるかを判断するのに役立つ可能性があります。
究極的には、ラマン分光を臨床現場に応用することにより、疾病診断や治療モニタリングのための新たな選択肢が医療従事者に提供され、従来の組織分析手法を補完できるようになります。レニショーは、ラマンイメージングの限界を今も押し広げています。神経腫瘍学は、生命科学全体で探求されている多くの応用領域のひとつに過ぎません。

詳細については、以下の文書をご覧ください。


Raman spectroscopy to differentiate between fresh tissue samples of glioma and normal brain: a comparison with 5-ALA–induced fluorescence-guided surgery in: Journal of Neurosurgery - Ahead of print (thejns.org)


Rapid intraoperative molecular genetic classification of gliomas using Raman spectroscopy | Neuro-Oncology Advances | Oxford Academic (oup.com)

この研究を行っている James Livermore 氏のインタビューをこちらでも視聴できます。

ラマン分光を使った医学研究 - YouTube

レニショー生物学用分析装置は研究用途専用 (RUO) であり、診断手順には使用できません。

執筆者について

Dale Boorman, Application Scientist

Dale Boorman の顔写真

生物学および医学研究用の顕微鏡および分光システムの開発と運用で 6 年の経験を持つアプリケーションサイエンティスト。

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